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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1816号 判決

控訴人 山中理史

右訴訟代理人弁護士 平原昭亮

同 石川良雄

同 外川久徳

被控訴人 小泉うめ

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 飯塚和夫

主文

原判決中控訴人に対し被控訴人小泉うめに金二三九万五三二八円、被控訴人小泉俊夫、同小泉浩三、同安延久美子に各金三、四一〇円及びこれらに対する昭和四八年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを命じた部分を取り消す。

右取消しにかかる被控訴人らの請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人と被控訴人小泉うめとの間に生じた分はこれを五分しその一を控訴人の負担としその余を被控訴人小泉うめの負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた分はこれを五分しその四を控訴人の負担としその一をその余の被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、被控訴人ら

後記控訴人主張事実のうち

(1)について、本件事故発生につき亡軍治に過失があったとの主張は争う。

(イ) 本件事故発生現場の状況については、本件事故現場は丁字路の交差点となっているが、横断禁止の場所ではなく、事故現場付近の国道の巾員は一三メートルもあり直線で見透しがよく、控訴人の運転していた車両のヘッドライトの光度は強く八〇メートル位前方まで人の動きが見え、その国道上は交通量が閑散で、事故発生当時、控訴人の運転する車両の先行車は一台もなく、後続車も五〇ないし一〇〇メートル位の地点に二、三台進行していただけで、対向車も事故現場一〇〇メートル位手前で一台すれ違っただけで他には全くなく、車道の両側には駐停車している車両もなく、控訴人の車両が衝突した地点は進行方向左側歩道と車道の接線から七メートル五〇センチメートルの地点であった。

(ロ) 控訴人は八王子市に永く住んでおり事故現場付近の道路状況は熟知しており、丁字路の交差点の存することを知っていたものであり、通常交差点付近では歩行者の横断がよくあることは自動車運転者の常識で、このような地点で道路横断歩行者がいるかどうかを特に注意しなければならないことも運転者にとっては当然に注意義務がある。控訴人は事故当時時速五〇キロメートルの速度で進行していたのであるから、乾いた舗装道路で急制動の措置をとると約二五メートルで停車するところ、事故当時控訴人の運転する車両からの見透しは八〇メートル位前方まで見えるのであるから前方を注視していれば当然に衝突地点よりはるか手前で停止できたはずである。また右のように道路は直線で見透しがよく、車道の両側に駐停車している車両はなく、対向車もなかったのであるから、被害者が車両の影から急に飛び出してきたということはありえないし、歩道から事故現場まで七ないし八メートルもあったのであるから歩道から急に飛び出してきたということもありえない。

したがって、本件道路状況を熟知していた控訴人が交差点付近を通過するときの自動車運転者としての注意義務を尽していたならば本件事故は発生しなかったものというべく、本件事故は控訴人の一方的過失によって発生したもので、亡軍治には本件事故の発生につき何らの過失はなかったものであるから過失相殺の余地はない。

(2)のうち

(イ)について 争う。

(ロ)について 亡軍治の一一年間の収入に対する生活費の割合を二五パーセントとすることは不当でない。すなわち、生活費は亡軍治自身が収入を得るに必要な再生産費を意味しているのであって、家族のそれは含まれない。亡軍治は本件事故により死亡した当時働きざかりで家族を扶養しており、その扶養家族は妻、長女、三男(学生)の三人で、軍治を含め四人家族であるから各自に支出される金員を単純に算術計算しても亡軍治のための支出は四分の一となるが、これはいわゆる生活費ではない。学生である三男のために支出される金員は亡軍治のために支出されるそれより多額になるけれども、その支出される金員のすべてが生活費となるものでないから、本件の場合事故時における亡軍治のための生活費割合がその収入の二五パーセントには達しない。しかし、逸失利益の算定につき一一年間を見込んでいるから、その期間の経過にしたがい後半になれば収入に対する生活費割合は事故時に比し増加する可能性もあると考えられるところからこれを平均して二五パーセントとするのが相当である。逸失利益の算定にあたり収入に対する生活費割合は事故時を基準にしてすべてを計算すべきではなく、その収入を得る期間をその生活状況に応じて算出すべきであって、これを一率に収入の五〇パーセントとすることは相当ではない。

(3)について 争う。

(4)について 本件の場合亡軍治の得べかりし利益の現価を算出するにあたり、ホフマン方式によるのが相当であって、控訴人主張のようなライプニッツ方式によることは不当である。すなわち、被控訴人らが右の逸失利益算出の基礎としているのは、本件事故当時の亡軍治の賃金収入額であってその後の毎年のベースアップを全く見込んでいない。これを仮りに昭和四七年と昭和四八年とを比較してみると二割以上アップしている。したがって、これに準じたアップ率を毎年乗じて賃金の逸失利益の現価を算出するならば、仮りに控訴人主張のライプニッツ方式によるも、被控訴人らが事故発生時の賃金収入を基準にホフマン方式で計算した現価額を上廻ることは計数上明らかである。このことは、亡軍治の年金収入喪失による得べかりし利益を算出するにあっても同様であって、被控訴人らは本件発生当時の亡軍治の賃金収入を基準にしているのであって、これを前記ベースアップ率を考慮するならばライプニッツ式で算出した額を上廻るのであって、右のいずれの場合においても、ホフマン方式により現価と算出することは不当でない。なお、控訴人は遺族年金を算出するにあたっても、ライプニッツ方式を採用すべきであると主張するけれども、被控訴人らが主張している遺族年金は、亡軍治が本件事故で死亡したことにより妻である被控訴人うめが得るであろう利益であって、亡軍治の逸失利益を算出するにあたって控除すべき利益であり、これが控除額の現価と求めるにあたり、右軍治の逸失利益の算出方法にホフマン方式を採用する以上、これもまたホフマン方式によるのが相当であるのみならず、これが控除額について控訴人主張のライプニッツ方式を採用することは、控除額を被控訴人主張の額より少額を控除することとなり、ひいては亡軍治の逸失利益の現価が増加する結果となるので控訴人に不利益であり不合理であるから、これもまたホフマン方式によるのが相当である。

二、控訴人

(1)  本件事故発生に関し事故当事者の過失、ことに被害者である亡小泉軍治の過失を斟酌するにあたり、さらに次の事実を考慮すべきである。

(イ) 本件事故現場は、国道二〇号線八王子バイパス道路上で、大和田橋南詰から西方約四〇〇メートルの地点であり、右道路はアスファルトで舗装された平坦な直線で巾員約一三メートル片側二車線の主要幹線道路であり、車道の両側にはガードレールを隔てて巾約二メートル一五センチメートルの歩道が設置された、いわゆる歩車道の区別のある道路である。他方本件事故現場の南側から右道路に直角に接する道路は巾員約四メートル三〇センチメートルの狭い道路であり右国道に接し丁字型交差点を形成し、同交差点では特に交通整理は行なわれておらず、近くには横断歩道もない。

(ロ) 右国道は本件事故現場の直近まで横断禁止場所に指定されていて車両の交通量が頻繁であり、本件事故現場の北方に目ぼしい施設がなく歩行者の交通も閑散であることなどと相俟って同道路の横断歩行者を見かけることは稀である。

(ハ) 控訴人は、八王子市に永年居住している関係から右道路状況については十分慣熟していた。

(ニ) 亡軍治は、酒に酔って左右の安全を確認することなく歩行してきた控訴人運転の車両の前方に突然飛び出してきたものである。

(ホ) 本件事故発生当夜、控訴人の前方及び右方に対する見透しは約三〇メートルでようやく人影を識別できる程度であった。

右の諸般の事情を考慮すると、本件事故発生につき斟酌すべき被害者亡軍治の過失は少くとも四割以上である。

(2)  被控訴人ら主張の亡軍治の得べかりし利益のうち賃金収入の喪失について

(イ) 被控訴人らは日本国有鉄道に停年制がないことを理由に就労可能年数は一一年であると主張するところ、国鉄職員に停年制がないとしても、ほとんどの国鉄職員は満五四才で任意退職しているのが実状であって、亡軍治につきなお一一年間国鉄職員として勤務することを前提にこれが就労年数を算出することは実状を無視したものであって、右実状よりすると、亡軍治が死亡時の賃金(年額)二二一万八六七三円をえられたであろう高度に蓋然性のある期間は二年間とするのが相当であり、仮りに就労可能期間が満六三才までの一一年間であるとしても、国鉄退職後の再就職によってえられるであろう収入は退職前給与の三分の一程度に低下することは公知の事実である。

(ロ) 被控訴人らは、亡軍治の就労可能期間における収入に対する生活費の割合を二五パーセントと主張するけれども、亡軍治の生活費につき特段の立証のない本件においては、五〇パーセントとみるのが相当である。

(3)  被控訴人ら主張の亡軍治の得べかりし利益のうち退職手当の喪失について

さきに(2)の(イ)で述べたように、亡軍治が満六三才まで勤務できないものとすると、右年令まで勤務したことを前提とする被控訴人ら主張の退職手当の喪失による損害は生じない。

(4)  亡軍治の得べかりし利益算定における中間利息の控除方式について

被控訴人らは右の利益算定にあたりホフマン方式により現価を算出しているがその主張の方式によることは不当である。すなわち、現在の経済社会における資本が通常複利法で利殖されている実績に照らすと、中間利息を控除する場合においても複利のライプニッツ方式によるのが合理的であって、本件のように二二年間もの長期にわたる遺族年金の現価を単利のホフマン方式によって求める不合理性は一層大きい。なお、本件における二二年間の遺族年金の現価をライプニッツ方式で算出すると金五四四万九七二七円(414,113円×13.16(22年の年金現価総額のライプニッツ式による係数)=5,449,727円)にしかすぎず、また亡軍治の一一年間の年金収入を仮りに被控訴人ら主張の生活費として三分の一を控除するのが相当であるとして算出すると金二三七万四二四九円((828,226-828,226×1/3)×4.30=2,374,249)となる。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、当事者間に争いのない事実及び損害額の算定の基礎となる認定事実についての当裁判所の判断は原判決理由説示(原判決書七枚目表八行目から同八枚目表三行目まで。ただし、同七枚目裏五行目から六行目にかけて「二二一万八、六七三円」の下に(月額給与一二万六〇〇〇円)」を加え、同一〇行目から同八枚目表一行目にかけて「同人が………六八七万六、一八九円となること」を削る。)と同一であるから、ここにこれを引用する。

二、右の認定事実によれば亡軍治の死亡による損害は次のように算定される。

(1)  賃金収入の喪失 金九五二万九二〇〇円

亡軍治の死亡時の年令は五二才であるから、就労可能年数は一一年であり、一一年分の中間利息の控除するホフマン係数は八・五九〇であり、この間の生活費は亡軍治の同居の家族構成その他を考慮すると五〇パーセントとするのが相当(被控訴人らはこの点につき生活費割合は二五パーセントが相当であると主張するけれども、亡軍治の死亡当時の同居の家族が四人で亡軍治本人の収入ないし労働能力再生産のための必要経費がその四分の一にあたる二五パーセントとし、かつこのことだけを前提として生活費割合を定めることは相当でない。)であるから、これを基礎として亡軍治の得べかりし収入の本件事故当時の現価を算出すると金九五二万九二〇〇円(2,218,673円×1/2×8.590=9,529,200円)となる(ただし、円未満切捨て。以下同じ。)。なお、控訴人は、国鉄職員は通常五四才で任意退職しているのが実状であって、五二才の者がなお一一年勤務することはありえないと主張するけれども、国鉄には停年制のないことは前示説示のとおりであって、就労可能年数がなお一一年存すると認められる以上、右一一年の期間を勤務するものとして計算することは何らの不合理はなく、≪証拠省略≫をもってしても右の認定を覆えすに足りないので、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。

(2)  年金収入の喪失 金四九六万一〇七三円

亡軍治の死亡当時の年令が五二才であるからその平均余命年数が二二年であることは当裁判所に顕著な事実であり、前記就労可能年数を経過した後は所定の退職年金を受けることができたものであるから、六四才から七四才まで一一年間右年金を支給された場合の中間利息を控除するホフマン係数は五・九九(14.580-8.590=5.990)であり、これを基礎(ただし、この間の生活費の控除については、控除すべき生活費を労働再生産のための必要経費とみると必要経費性をもたない稼働可能期間経過後の生活費が控除の対象とならないことは当然であるほか、退職年金の性格上、これが受給期間の生活費を控除することは相当でないと解する)として亡軍治の六四才まで一一年間の年金収入の本件事故当時の現価を算出すると金四九六万一〇七三円(828,226円×5.99=4,961,073円)となる。

(3)  退職手当の喪失について

亡軍治が六三才まで勤務したとして(控訴人は、この点についても六三才まで勤務することはないから、退職手当の逸失利益は認められないと主張するけれども、前示説示のように亡軍治は六三才まで国鉄において勤務可能であるからこの点に関する控訴人の主張も採用できない。)退職した場合の退職手当額は金七〇一万八九二〇円(120,600円×58.2=7,018,920円。被控訴人らは退職時俸給月額に退職加算として一・二を乗じた額を基準とするけれども、国鉄職員にも適用される国家公務員等退職手当法六条によると被控訴人の俸給月額に乗ずべき率はその所定の五八・二の率を超えるので、これが率を乗じた範囲内で退職手当額を算出すべきである。)であり、これをホフマン方式により現価を算出すると金四五二万七八〇五円(7,018,920×0.6451(11年期限付債権名義に対するホフマン係数)=4,527,805)となるところ、すでに受領した退職手当金は金五七三万〇一五八円であるからその差額金一二〇万二三五三円となり、これが減差額が生ずる以上、被控訴人らには亡軍治の死亡による退職手当金の逸失利益による損害は生じないこととなる(仮りに、その退職手当額を被控訴人ら主張のように金八二五万一四二六円(≪証拠省略≫にも同趣旨の記載がある。)としても、これをホフマン方式により現価を算出すると金五三二万二九九四円(8,251,426×0.6451=5,322,994)となり、その既受領額との減差額は金四〇万七二〇九円となる。)から、被控訴人らの亡軍治の退職手当喪失に基づく損害についての主張は理由がない。

三、右(1)及び(2)の合計金一四四九万〇二七三円は亡軍治につき生じた損害であるところ、被控訴人らは自賠責保険から五〇〇万円の給付を受けている(これが金額は相続人である被控訴人ら各自の相続分の割合に応じて支給を受けたものと認められる。)から、これが金額を控除すると金九四九万〇二七三円となり、この金額は被控訴人らの相続分に応じて相続されるので、これを被控訴人ら各自につき算出すると、被控訴人小泉うめは金三一六万三四二四円、その余の被控訴人らは各金二一〇万八九四九円となる。

四、ところで、右に相続した損害額につきさらに被控訴人各自の亡軍治の死亡による損害額についてみるに

(1)  被控訴人小泉うめ 金九二万五六五七円

(イ)  亡軍治の葬儀費用として金三〇万円を支出したことは前示認定のとおりであるから、これが金額を加算すべきである。

(ロ)  亡軍治の死亡による慰藉料として諸般の事情を考慮し金三五〇万円と認めるのが相当である。

(ハ)  他方同被控訴人は亡軍治の死亡により遺族年金として一か年金四一万四一一三円を受給しているから、これが受給されるべき期間は同被控訴人の年令を勘案すると二二年間と認めるのが相当であり、この期間利息を控除するホフマン係数は一四・五八であり、これを基礎にして遺族年金の現価を算出すると金六〇三万七七六七円(414,113円×14.58=6,037,767円)となるところ、これは亡軍治の死亡によって同被控訴人の得る利益であるから、損益相殺の法理により、同被控訴人の損害額から控除すべきである。

(ニ)  右によると同被控訴人の損害額は金九二万五六五七円(3,163,424円+300,000円+3,500,000-6,037,767円=925,657円)と算出される。

(2)  その余の被控訴人ら 各金二六〇万八九四九円

亡軍治の死亡による慰藉料は諸般の事情を考慮し各五〇万円とするのが相当であり、これに前記相続による損害額を加えると金二六〇万八九四九円と算出される。

五、控訴人は、前記逸失利益の現価を求めるにあたり、中間利息控除の算式としてライプニッツ方式によるべきであると主張するけれども、ライプニッツ方式による複利計算は主として取得すべき金員を複利運用するという経済活動に着目して行なわれることを当然前提とするものであって、これが金員全く消費することなく当該期間これに見合う運用を計かることを目的とするものであるところ、このような方法を措ることは常態であるとは認められないし、またこれを一般に期待することも適当ではなく、他方中間利息控除の期間が長期にわたる場合には両者の方式のいずれかをとるかによって大きな金額の相違が生じ、ことにその金額が高額の場合には、ホフマン方式による現価の算出が適当でない場合がないではないが、本件のような金額及び期間につき右のようなホフマン方式による不合理の生ずる理由を見出し難いので、ライプニッツ方式により中間利息の控除すべきであるという控訴人の主張は採用できない。

六、過失相殺について

本件事故発生についての過失相殺についての当裁判所の判断は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、被害者亡軍治の過失は二割であると認めるので、原判決の理由(原判決書九枚目裏九行目から同一〇枚目末行まで。)をここに引用する。

原判決書九枚目裏一〇行目中「結果」の下に「(原審及び当審)」を、同一〇枚目表三行目中「置されていないこと、」の下に「控訴人は事故当時時速五〇キロメートルの速度で自動車を運転していたが、同自動車の前照灯は前方約八〇メートル位まで人の動きがみえる性能を有していたこと、事故発生時事故発生道路の交通量は頻繁な交通量とはいい難く、本件事故発生時控訴人の運転する車両の近くに先行車はなく、後続車も五〇ないし一〇〇メートル後方を進行し、対向車両も事故現場一〇〇メートル手前で一台すれちがった程度であったこと、事故発生の道路両側には駐停車していた車両はなかったこと、」を、同五行目中「気付いたこと」の下に「、控訴人の運転する車両と亡軍治が衝突した地点は進行道路左側から七ないし八メートルの地点で道路のほぼ中央であったこと」を、同八行目中「横断しようとしたもので、」の下に「酔余のあまり事故発生道路上を進行する車両の速度と自己の道路横断に対する安全性に対する判断にいささかの常時と異なった判断をし、」を加える。

七、右の過失相殺により被控訴人らの損害を算出すると、被控訴人小泉うめは金七四万〇五二五円(925,657円×0.8=740,525円)、その余の被控訴人らは各金二〇八万七一五九円(2,608,949円×0.8=2,087,159円)となり、控訴人は被控訴人に対し本件事故に基づく損害賠償として右各金員及びこれらに対する本件不法行為の日の後である昭和四八年八月一七日から支払済みまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

八、したがって、原判決中右の範囲を超え控訴人に対して被控訴人ら金員の支払いを命じた部分は不当として取消しを免がれずこれが取消しを求める本件控訴は理由があるけれども、右の範囲で控訴人に金員の支払いを命じた部分は相当であって、この部分の取消しを求める本件控訴は理由がない。

よって、原判決中右の範囲を超えて控訴人に金員の支払いを命じた部分を取り消し、これが取消しにかかる被控訴人らの請求及び控訴人のその余の控訴を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも当事者双方の勝敗の割合を勘案してそれぞれその負担を定めることとして、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 安井章)

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